がんを自分で治した医師が克服法を伝授
橋本豪さん
プロフィール
橋本豪(はしもと・つよし)1951年、京都府生まれ。77年に奈良県立医科大学卒業後、外科医として研修。80年、ガン免疫学を学ぶため、大阪大学医学部癌研究所研究員。91年、はしもとクリニックを開業。98年、悪性リンパ腫を発症、抗がん剤治療を拒否し、ゲルソン療法で克服、2000年に再発(腹部転移)し、改めて代替医療に取り組む。2004年、はしもとクリニックを閉じ、その後、がん患者に代替療法や生活習慣のアドバイスをインターネットを通じて行う「e-クリニック」の顧問医師を勤める。著書は「ガンを自分で治した医師の『ガン治し』本気塾」(マキノ出版)、「ガンを食事で治した医師と患者のレシピ」(同)など。
鍛え抜いた筋力自慢がまさかの発症
外科医として数多くの手術を手掛け、最先端のがん研究に携わった経験もある橋本さんが、悪性リンパ腫を発症したのは1998年のこと。
大学時代に空手で体を鍛え、医師になってからはフィットネスクラブへ通い、筋力トレーニングに励むスポーツマンだった。クリニック開業後も休診日には、坂道を何十回も往復して、鍛えた体の維持に努めた。真夏のある日、いつものように坂道を全力疾走したが、汗が出てないことに気づき、体の変調を初めて自覚した。あごの左下にあるリンパ節が腫れてきたのは、それから直ぐのことだった。
先輩の医師に診察してもらい、メスで組織の一部を切り取って検査したところ、悪性リンパ腫というリンパ組織のがんであることが分かった。悪性リンパ腫とは、免疫をつかさどる白血球の中のリンパ球が無制限に増えて塊りになる、リンパ組織のがんだ。白血病は、血液の中でリンパ球が増殖し、がん化する病気。これに対して、悪性リンパ腫は、リンパ管の中でリンパ球が増えてがん化する病気で、がん化したリンパ球が血液の中に入ることは「あまりない」とされている。
悪性リンパ腫は、T細胞性とB細胞性に分類される。人の体は、有害物質を処理したり、病気から体を守ったりするための「免疫」という自己防衛システムが備わっている。その免疫に指令を出し、有害物質や病原菌を攻撃して闘うのがT細胞。そして、抗体(病原体などの異物が体内に侵入してきたときに撃退する物質)を作って異物の活動を阻止するのがB細胞。
橋本さんの場合は、有害物質の活動を阻止する抗体(=たんぱく質)を作る細胞ががん化する、B細胞性の悪性リンパ腫だった。当時は、どちらのタイプも治り難い病であることに変わりはなかったが、現在は治療法が発達してきたので、B細胞性の悪性リンパ腫の方が比較的治りやすくなっている。
とはいえ、悪性リンパ腫は、がんの中でも「性質が悪いがん」とされている。リンパ組織は全身に分布しており、がん細胞もリンパ液に乗って全身に回るため、1ヵ所を手術で切除しても治らないからだ。このため、基本的に手術は行われず、抗がん剤を使った化学療法となる。
抗がん剤治療を拒否
B細胞性の悪性リンパ腫に対する治療の場合、3種類の抗がん剤(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン)に副腎皮質ホルモン(プレドニゾロン)を組み合わせた化学療法「CHOP(チョップ)療法」というのがメインとなる。
化学療法は、副作用が伴い、骨髄(骨の中の空所を満たす柔らかい組織)の働きの抑制、吐き気、脱毛といった副作用があり、これに加えてCHOP療法で出血性膀胱炎、便秘、腸閉塞、末梢神経障害、心筋障害などの副作用がある。
最近は「リツキサン」という分子標的薬(体内の特定の分子を狙い撃ちして、その機能を抑える薬)を使った治療が行われるようになった。ただし、発熱、じんましん、呼吸困難、血圧低下などのアレルギー反応に注意する必要がある。橋本さんが発症した当時、この薬は日本になく、アメリカから個人輸入して治療に取り入れていた。現在は、日本でも健康保険が適用され、CHOP療法との併用が主流となっている。
橋本さんは、友人の医師から直ぐに化学療法を受けるよう、熱心に勧められたが拒否した。理由は2つあった。1つは、機会があれば、標準的な治療法(手術、放射線、化学)以外の治療法を自分の体を実験台にして試してみたい、と思った。2つ目は、化学療法のリスクを熟知していたからだ。抗がん剤は、いつか効かなくなるのが宿命で、効かなくなったときには激しいリバウンドが生じる。また、多くの副作用も避けられないため、頑なに拒否し、新たな治療法を求めた。
食事療法の中断で再発・転移
橋本さんが出会ったのは「ゲルソン療法」。ドイツの医師、マックス・ゲルソンが開発した食事療法だ。この連載で、精神科医の星野仁彦さんが大腸がんと転移性肝臓がんをゲルソン療法で克服したことを紹介したが、橋本さんは星野式ゲルソン療法を参考にしながら自分なりにアレンジした。
食事療法を始めてから10ヵ月後、あごの下のしこりが消えた。自分でエコー(超音波)検査すると、確かに何も残ってなかった。この時、食事療法で「完治」した、と思った。
「治った」という気のゆるみから食事が乱れ、3~4ヵ月経った頃、がんが再発した。腹部に転移し、腎臓周辺のリンパ管にできた腫瘤によって血液と尿の流れが阻害され、尿毒症を起こし、病院に運ばれた。
検査すると「ステージⅢ(3期)」(上半身、下半身両方のリンパ節への転移)と診断された。他の臓器までは転移していなかったので、幸い最終の「ステージⅣ(4期)」ではなかった。ちなみに、ステージⅢの5年生存率は50%以下。
病院は、緊急措置として化学療法を行った。尿毒症で立つこともできず、化学療法を拒否する思考力、気力も失せていたので、ついにCHOP療法を受けることになった。
髪の毛は抜け落ち、ふらつき、頭の重さ、無気力などの副作用で入院中は、苦しい思いをしたが、抗がん剤がようやく効き始め、腫瘍が小さくなり、徐々に消え、腫瘍マーカーの数値も下がった。やれやれと思った矢先に、怖れていたリバウンドが起こり、抗がん剤が効かなくなり、腫瘍マーカーの数値が再び上がった。担当医からは「もう無理だ」と、さじを投げられた。
医師との出会いが転機
橋本さんが見つけた治療法は、前述のリツキサンだ。この当時は、日本でまだ認可されていなかったので、自ら個人輸入でアメリカから取り寄せ、点滴で投与した。ほぼ同じ時期に「リンパ球移入療法」も受けた。
自分のリンパ球、あるいは他人のリンパ球のいずれかを使う方法があり、橋本さんは、他人のリンパ球を点滴で投与して、自分のリンパ球を刺激するという治療法を受けた。本を読んで知った治療法を行っている医師を訪ね、この出会いが転機となった。「大丈夫。治りますよ」という言葉が、大きな希望を与えてくれ、もう一度がんに立ち向かう気力が蘇えってきた。
そして、がんを治すにはどうすれば良いのかを追究し始めた。なぜ、がんになったのか、腫瘍が一度は消えたのに、なぜ再発したのか、がんを克服するには何が必要なのか、これらを考えて行けば、やるべきことが見えて来る。
この頃に出会ったのが、悪性脳腫瘍の専門医である「e-クリニック」の岡本裕医師だ。
e-クリニックは、有志の医師らが協働で、インターネット、メール、面談、セミナー、ワークショップ、書籍などを通じて、日々、主にがん患者対象に、有意な情報を発信してる。ちなみに、e-クリニックは、情報発信機関なので治療そのものは行っていない。病院等の紹介も原則として行ってない。
橋本さんは、岡本医師と出会い、どうすればがんは治るのか、治る人と治らない人の違いなどについてディスカッションするようになったことも、がんを克服する方法を見出す足掛かりとなった。
がんを克服する方法とは
橋本さんがディスカッションなどを通じて分かってきて整理した、がんを克服する方法のポイントは4つ。
①がんになった原因は一つではない
がんの発症の原因は様々あり、生活する中で何年、何十年もかけて積もり積もって、境界線を超えた時にがんが発症する。何か1点に焦点を当ててアプローチしても、根本的な原因を全て取り除けるわけではない。つまり、悪性リンパ腫を発症した時に、食事の改善だけを行ったが、やはり根治しなかった。
②自律神経の乱れが病気に関係している
悪性リンパ腫を発症した時、最初に自覚した変調は、真夏にハードな運動をしても汗が出ないことだった。つまり、自律神経(意志とは無関係に内臓や血管の働きを支配している神経)のバランスが乱れていた。がん患者にヒアリングしてみると、自律神経のバランスの乱れからくると思われる症状が現れていることが分かった。がんを克服するには自律神経のバランスを整える必要がある。
③医師に頼るだけではがんは克服できない
がんになったら医師に任せるしかない、と思っている人が多いが、医師の治療だけでは、完治が難しい。手術・抗がん剤・放射線の三大療法は、急性期には多大な力を発揮し、がんの進行を遅らせる時間稼ぎになる一方で、人間が本来持っている自己治癒力を低下させる。治療で低下した自己治癒力のケアは、医療機関がやってくれないので、自分でやるしかない。医師頼みではない、自立心を持つことは、がんに打ち克つために絶対に必要。
④変わる勇気が必要
がんを発症した原因が、それまでの生活にある以上、生活習慣や生き方、考え方も変えなければ、同じことの繰り返しになる。全てをリセットする、いさぎよさが必要。
橋本さんによると、がんを克服した人、ほぼ治るであろうという段階に漕ぎ着けた人たちが口を揃えていうのは「がんになって良かった」という言葉だ。
病気になり、その病と真っ向から闘おうと思ったら、人は自分の内面と向き合うことを余儀なくされる。すると、それまで些細なことに悩み、瑣末なことでストレスを感じていたことに気づき始める。それまで何も考えずにいたことの中から、大事なもの、そうでないものがはっきりと区別できるようになる。そして、頭や心の中がすっきりと整理されると、物事がより深く考えられるようになって、人生の本質が見えるようになる。
橋本さん自身が病んで、習得した「賢い病み方・生き抜き方」の極意だ。
そして、がん克服の4つのポイントに基づいて、自己治癒力を自分で高め、自分でがんを治すために家庭でできる代替療法を体系化し「セルフ治療」と命名してネットや講演会、書籍などを通じて発信している。
関連書籍は
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